西暦1864年、大政奉還の年、前年、罪と罰の大ヒットを飛ばし、美人秘書と目出たく結婚したドストFは賭博狂いの本性を現して、目出たくすっからかんの無一文、新妻の持参金まで使い込み、一文字も書いていない新作の原稿料で取り立て屋から逃げ出したドイツで再びルーレットで大負けし、妻の耳飾りまで流して、ホテルの屋根裏に潜んでいたのでした。
そんな処まで、編集の原稿催促はやって来るのでした。原稿料は書かないうちに消えていたのです。
催促の手紙にはこう書かれていました。
レフ・ニコラヴィチ・トルストイが戦争と平和で大ヒットを飛ばしたぞ。流石名門大貴族の大金持ちの大学出だ。アンタの様な貧乏人の三文官使の小説とは上品さ気品さが全然違う。サッサとアンタのガクガクした美文の欠片もない醜聞小説を書いて送れ。この儘では世間から忘れられてしまうぞ。
現代に至るまで偉大な美文小説家の代表がトルストイで醜文小説家の代表がドストFだと言われるのです。
ドストFの顔が赤青黒く膨れました。レフ氏への憎しみが爆発しました。
おのれ、レフめ、アホのクソ莫迦のくせに、たまたま大金持ちの名門貴族に生まれたお陰で良い目ばかり見やがって。あいつなんか俺よりもっと賭博狂いのアホの変態的お人好しなんだぞ。戦争と平和がなんだ、あんなのはお貴族様のお遊びに過ぎない。オノレ、レフめ、アホのくせに、あほのくせに、俺なら遥かにマシな話を…
その時、ドストFに天啓が閃きました。
よし、レフの奴を主人公にして一本書いてやるぞ。
題名は、おバカさん、主人公の名は、レフ・ニコラヴィチ…トルストイじゃ流石にマズイな。大体トルストイなんて、奴には出来過ぎだ。(トルストイは大物の意味)よし、小鼠にしてやる。
トコトン莫迦で不幸な大金持ち、レフ・ニコラヴィチ・ムイシュキン(小鼠)だ。ざまあー見ろ。おお、インスピレーションが湧いてくる。スラスラかけるぞ。スランプ脱出だ。ウヒヒヒ、人の悪口を書くのは楽しーなー
こうして世界史に残る
ドストエフスキーの偉大な名作がまた一つ誕生したのでした。
読んだレフ氏は
ダイヤモンドの様に眩しい
と言ったとか。大人なのか、其れともやっぱり莫迦だったんでしょうか。
マニアで古い訳本を集めているという方へ。
初めて読む若い方は、やっぱ新しい訳で読んだ方が良いです。
美品をお求めの方はご遠慮願います。