ニール・ヤングの「A LETTER HOME」は2014年のリリース、私が数ある彼のアルバムのなかでベスト3に入る好きな作品です。本作は賛否両論ありますが、人がどう思うかよりも自分がやりたい作品を作り続けるというスタンスがヤングらしいと思います。アルバム・コンセプトは、"俺が愛して俺の人生を変えた数々の楽曲をカヴァーしたタイム・カプセル・アルバム"というヤングのコメントがあります。モノクロ感とレトロ感にあふれた演奏音は、ヴォイスグラフという1947年に作られた録音機材をわざわざ使って録音されたためです。そのため演奏音はノイズが目立ち、時々音が割れたりもします。LPレコードを意識して、A面からB面に変える時に"ブチッ"という針音が入り、ところどころに"プチプチ"という針音まで入っています。録音が最低だと思わせるところが賛否両論ある原因でしょうが、ヤングの本当のファンならば、その渋さと凝り性がたまらないはずです。アルバム冒頭では、故郷の母に宛てた声の手紙(A LETTER HOME)がヤングから伝えられます。セピア色でわざとシミをつけたようなアルバム・ジャケットは、電話ボックスでギターを弾いているヤングの姿がストーリー性を高めています。元ホワイト・ストライプスのジャック・ホワイトとの共同作業によるカヴァー・アルバム集です。アコースティックで朴訥で、こんなにわざと音を崩してもリリースできることこそが、ヤングは大物なのだと思わされます。中でも、ボブ・ディランの「北国の少女」、バート・ヤンシュの「死の針」、ゴードン・ライトフットの「朝の雨」は何度も聴きたくなる絶品です。まるで街から街へと渡り歩く、ギターマンの路上演奏のような素朴さがリアルに響きます。余談ですが、ボブ・ディランのアニバーサリー・コンサートのラスト・ステージで、私は大変驚く光景を眼にしました。それは数ある来賓豪華ゲストのアーティスト達と来場のお客様にディランがお礼とお別れのご挨拶をした時のことです。なんとディランがヤングとだけ、ステージでしっかりと握手を交わしたことです。しかし「A LETTER HOME」のヤングの我が道を行くやり方は、ディランの普段のやり方とまったく同じで、彼らは心通じる同胞なのだと納得させられました。本作は見開き紙ジャケット、メイドインEU、未使用品に近く美盤の逸品です。