バッハ 2枚組
パルティータ第1番~第6番
スコット・ロス(チャンバロ)
録音:1988年4月
ロスのパルティータを聴いていると、音は間違いなくチェンバロなのに、まるでピアノの演奏を聴いているように錯覚する。そう感じる理由の一つは、チェンバロにしては金属的な響きの少ないまろやかな音色が耳に優しいこと、アゴーギクやルバートが強くないので(細かく緩いので)、インテンポにかなり近く感じること。今まで聴いたチェンバロのなかで一番好きな音色と響き。残響もほどよい長さで、厚みが薄めで軽やな弾力があって、ベタッとした叙情感が少なく、きりりと引き締まってすっきりした響き。明るさと清々しさを感じさせる音が体の中にすっと入ってくる。ロスのパルティータは、アゴーギクもルバートも強調せずに端正なくらいなのに、単調さを感じることはない。何よりも、ひたすら前進していくような推進力と、生き生きとした生命力が湧き出て、瑞々しい躍動感のあるロスの演奏に惹きこまれて、じっと聴き入ってしまう。そういう感覚は、ピアノ演奏を聴いたときでも、経験することは少ない。
音楽評論家:福島章恭氏
「ロスの亡くなる14か月前に録音である。ロスの天才性は明らかで、聴きなれたはずの第1番プレリュードが始まった途端、魂が遠くへ運びさられてしまうような感覚に捉われる。その鮮やかさは、ひとたび彼の足元にボールが転がると、その軽快なドリブルに誰も着いてこれない無敵のミッドフィルダーを見るようだ。しばらく聴きすすめるうちに、ここに鳴る音を『鮮やか』とか『軽やか』という言葉で表すことがいかに不適切であるかを思い知らされる。ふと気が付けば、心の中に直接手を突っ込まれて掻きまわされるかのような胸騒ぎが止まないのである。そう、ここにあるのは、ロスの魂の絶叫であり、慟哭なのだ。生の謳歌、あるいは執着、死への憧れと恐怖、それらが混然一体となって聴く者に襲いかかってくるのであるから、気軽にBGMに流すわけにはいかない。その意味で、死を覚悟したリパッティのラスト・リサイタルと共通した『生の重さ』を感じさせる演奏と言えるだろう。しかし、ロスは未だ悟っていない。必死に戦っている。もがき苦しんでいる。それだけに、その叫びは痛切で生々しい。」
国内盤、帯無し、盤面傷無し 32
新品に近い美品です
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