2019.04.20
21.5 x 15.2 cm
カラー64頁
デザイン:北村孝子
撮影:Bernd Borchardt (p.23)
印刷・製本:株式会社サンエムカラー
発行:ワコウ・ワークス・オブ・アート
ISBN: 978-4-902070-51-4
2019年4月20日から6月1日まで、ワコウ・ワークス・オブ・アートで開催したゲルハルト・リヒター「PATH」展の展覧会カタログ。本展で世界初公開されたエディション作品《PATH》(Edition Catalogue Raisonne: 176)全25点の図版に加え、日本未公開の7点のアーティストプルーフの図版も掲載。
(本カタログは図版集です。テキストは含まれておりません。)
《PATH》は、すべて同じ風景写真を印刷した25点のインクジェットプリントの上に、1点ごとに異なるストロークでスクラッチ痕を施した、ユニークエディション作品です。ベースとなるのは、作家がイタリア北部にある保養地マッジョーレ湖の湖畔で撮影した、森の小径の風景写真です。
インクジェットプリントを引っ掻くという制作方法は、エディション以外の作品も含め、リヒターの制作史上、本作で初めて用いられる表現です。美しい緑の風景を印刷した顔料インクの下から、ひっかき傷を介して、支持体である紙の素材そのものとまっさらな白さが表出し、イメージの存在のあり方を問いかけ始めます。
本作はエディション作品でありながらも、これまで描かれてきたペインティング作品との関連性が色濃い作品です。これまでも油彩画作品の中では、絵の具を削ぐ・削るといった手法が繰り返し試みられてきました。特に近年、2014年以降のアブストラクト・ペインティング作品の中で、細い切っ先で絵の具を削ってカンバスを暴き出すという作業が顕著に用いられるようになってきています。また、イメージやその再現を問いかける事のできる「写真」、そして表象の歴史と関係の深い「風景」というふたつの主題は、作家にとって重要な絵画モチーフであり続けてきました。新作《PATH》では、このようにリヒターが生涯に渡り追求してきたイメージそのものへの問いかけが、カンバスからインクジェットプリントの上、紙と顔料インクという新しい関係性の中で実践されています。