上田早夕里『リリエンタールの末裔』、『菓子フェスの庭』 文庫本二冊です。
普通の古本です。
以下、個人的な感想。
■『リリエンタールの末裔』★★★★☆
4作品が収録された短編集。
タイトル作は、大部分が水没した地球を舞台としており、著者の終末観につらなる作品である。4作品に通底するのは、ロマンに魅せられた人々、になるだろうか。
背中に鉤腕を有する青年の大空への憧れ『リリエンタールの末裔』、昏睡状態ものの内面を視覚化すると『マグネフィオ』、海洋探索装置とシンクロし変容したオペレーター『ナイト・ブルーの記憶』、高精度に時を刻む石『幻のクロノメーター』。
『幻のクロノメーター』は、18世紀ロンドンを舞台に、時計職人が手に入れた奇妙な石にまつわる物語。虚実入り混じったスチーム・パンク的作品。素晴らしい。
■『菓子フェスの庭』★★★☆☆
神戸のフランス菓子店を舞台としたパティシエ小説。
『ラ・パティスリー』の五年後の設定で、前作を読んでいないと、登場人物の関係性などを含めて楽しさ半減だろうか。
百貨店勤務の主人公が任せられたのは「お菓子のフェスティバル」というイベント。しかし、彼は極度のスィーツ嫌いだった。同僚のスィーツ女子の力を借りて、渋々、企画を進めることに。
そんな中出会ったの<ロワゾ・ドール>の女性パティシエ。彼女はスィーツ嫌いでも楽しめるスィーツの製作にチャレンジしていく…。
徐々に女性パティシエに心惹かれていく主人公、そこに強力なライバル登場…というお約束の展開である。しかしながら、真の主役はあくまでスィーツ。ブラン・マンジェ、アイリッシュ、オペラ等々、お初にお目に(!)かかるスィーツがてんこ盛りである。お菓子作りが趣味の読者なら、興味津々だろう。