1 / 5

Please read the item description carefully as the item photos may not match the actual product. View original page

Translate

虫入り琥珀(11)化石 ミャンマー カムティかタナイ産 9900万年前

Price
Sold Out
Item Condition
No apparent damage/stain
Japan Domestic Shipping
Free
Estimated Shipping Time
Within 4~7 days(for reference only)
Seller
石売る京都の小説家
More
Rating
68
0
「未来の少年」  タケシがそのおかしな店を見つけたのは、小学校4年生のときだった。  京都市左京区にある、哲学の道のほど近く。細い坂道を上っていたとき、玄関のガラスの引き戸に、「石屋」とだけ記された紙が貼り付けてあるのが目に留まった。  店の前にはワゴンが置いてあり、その中に石ころが並べられていた。ワゴンには「虫入り琥珀 特価千円」とだけ黒マジックで殴り書きされた厚紙が立てかけてある。  これはなんだろう、と思いながらワゴンの中を覗き込んだ。すると、ガラガラと音がして目の前でガラスの引き戸が開き、ひょろっとした白髪のおじいさんが外に出てきた。  思わずあとずさり、慌ててその場を離れようとしたとき──、 「一億年前の虫やで」  おじいさんが、ワゴンの中の石をひとつ摘まんで、目の前に突き出した。  見ると、直径2センチほどの透き通った黄金色の石の中に、小さな昆虫が閉じ込められている。 「じゅし、ってわかるか?」  いきなりおじいさんが訊いた。首を振ると、 「樹脂いうんは、樹の皮が裂けたときに中から出てくる、どろどろした液体のことや。それはな、昆虫が穴を開けて中に入ってくるんを止めるためのものなんや。樹脂はな、いい匂いがすんのや。昆虫がその匂い誘われて、樹脂の上に留まるとな、足が引き抜けなくなってまうねん。その上に、新たに樹脂が流れ落ちて昆虫を丸ごと呑み込んでしまう。せやから、中の虫は、1億年前の姿のまんま、樹脂の中に閉じ込められてるんや。えらい珍しいもんなんやで」  おじいさんから石を受け取ると、タケシは、中に閉じ込められた虫をまじまじと見つめた。それは、不思議な光景だった。  その日以来、タケシはその店に通い続けた。おじいさんは、化石や天然石、鉱物について、様々なことを教えてくれた。中学、高校生になっても、タケシはときどき店に行った。おじいさんと話すのは楽しかった。  おじいさんはタケシが高校2年生のとき亡くなったが、自分が集めた石をタケシに譲ると遺言に残してくれた。タケシは丸2日間泣き続けた。  大学で考古学を専攻し、高校の教師になり、定年で引退すると、タケシは、哲学の道の近くに「石屋」を開いた。  小学生が、珍し気な顔で玄関前のワゴンを覗き込んでいる。  ドアを開けて外に出ると、びっくりする少年に向かい、 「1億年前の虫やで」  笑いながらタケシは声をかけた。
Translate

Related Items