内容
「パリは変わる!だが…」現実の中に過去の寓意を見た狂気の画家メリヨンの魂の風景。都市風景の秘められた病歴。
寓意と遠近法という二つの要素を通し、狂気の画家メリヨンの作品が依り所としている意識の古層を掘り起すことを目的とした本。現実の中に過去の寓意を見た、メリヨンの魂の風景と、都市風景の秘められた病歴を読み解く。
フランスの19世紀中期の銅板画家シャルル・メリヨンに関する評論集。メリヨンはボードレールの友人でもある。日本の浮世絵は既にオランダからの眼鏡絵の影響で遠近法の技法を取り込んでいた。それが、印象派の画家が日本の浮世絵を取り込むバックにもなっていたという指摘は注目に値する。「プチ・ポン」にスクフィンクスの影が隠されており、それが彼の寓意をあらわすと共に、病跡でもあろう。スクフィンクスはナポレオンⅢ世を表していると言う。ノートルダム寺院の怪獣像を吸血鬼と見ている。からすと吸血鬼とパリの街を描いた銅板画は迫力がある。ゴッホとメリヨンの関連とアナロジー。精神科医のガシェ博士は二人に浸しく交わっていたという。狂気の芸術家と言う評価。生前の無名と死後の名声等。メリヨンも二〇世紀初頭に非常に着目された時があったという。
19世紀パリの銅版画家メリヨンの作品と個人誌を追ったもの。当時のパリの変容と風景芸術の進展,狂気に向かうメリヨンの心象,全てを関連付ける歴史的研究。
シャルル・メリヨン(1821-1868)という腐食銅版画家をご存知だろうか。
ボードレールと同年にこの世に生まれ、大改造の前に消えゆくパリの情景をエッチングによって描き、最期はシャラントンの精神病院にて世を去った。
私がこれまで作品の伝える「気分」しか見ていなかったのに対し、著者はその細部に古典的宗教画やパリの都市史に遡る図像学的な読解を試み、またメリヨンの個人史とも対照させて、メリヨンを「寓意画家」として認識し、作品にその「病跡」を見出してゆく。
「モルグ街。私は屍体公示所を描いたことがある。それからオラン・ウータン。私はよく猿に似ていると言われた。小説中の猿は、二人の女、母と娘を殺害する。ところで私も、二人の女、母と娘を精神的に殺害したことがある。私はいつも、この小説を、私の災厄を暗に扱ったものと取ってきました」
ポーの小説『モルグ街の殺人』について、メリヨンがボードレールに語った言葉