1987年6月16日 第1刷発行。
青野聰は、1943年7月27日生まれ、東京都出身の小説家です。
1962年に早稲田大学に入学し、1966年に中途退学してヨーロッパに渡り、1977年2月までパリを拠点に、ロンドン、ギリシア、イスラエル、インド、メキシコ、グアテマラ、ボリビアなどを放浪旅行しました。
そしてこの間の1972年に、紀行散文集『天地報道』で作家としてデビューします。
本作は、1978年にパリに滞在した著者の体験を反映したと思われる主人公が、旅行会社での勤務を通じて、その会社の日本人経営者、および日本からの団体旅行客の横柄さに辟易としながら、旅行者としての歩みを一旦止めて居住者となり、そして再び旅行客と動き始めるまでの束の間の時間を描いたものです。
それはパリを舞台にした、旅人の記録のほんの瞬間の一コマに過ぎないのですが、婚姻関係にあるヨーロッパ人女性との気持ちのすれ違いや、パリを後にして中東に旅立った際の旅の相棒である男性との意識のズレなどを描くことで、根無草としての生き方でさえも、何物かに束縛されざるを得ない不自由さを引き摺るしかない、真の意味での人生の重みの表現になっているのが、今作が読者を惹きつける魅力になっていると思います。
経年による、色褪せ、シミが少しだけあります。
それ以外は美品です。