ワシントン・ナショナル・ギャラリー
「芸術新潮2021年6月号」
定価: ¥ 1500
#本
ヨーロッパ以外で唯一となるレオナルド・ダ・ヴィンチに、謎めいた女性を描いたフェルメール作品が3点、ボッティチェリにラファエロ、ルーベンスの大作にレンブラントの自画像、はたまた現代美術まで――約12万点に達するコレクションの量ばかりか、その幅の広さと質の高さで多くの美術ファンをうならせてきた、ワシントン・ナショナル・ギャラリー。……。
所蔵品のなかでも19世紀フランス絵画約450点は名だたる巨匠たちのいずれも代表作ばかり。そんな自慢のコレクションから、このたび83点が大挙来日。
出品作を中心に、印象派・ポスト印象派の作品を解説するのは『怖い絵』でおなじみの中野京子さん。印象派の時代にあたる19世紀後半は、フランスが政治も経済も文化も大きな変化を迎える転換期でもありました。絵画作品から浮かび上がる、モダン・パリの光と影を読み解きながら、ワシントン・ナショナル・ギャラリーが誇る名画の世界へご案内いたしましょう。
〈はじめに より〉
✦風を感じ、光と遊ぶ
クロード・モネ
《日傘の女性、モネ夫人と息子》
印象派以前にも、自然を描く画家はいました。しかし、陽光の下では色が固有の色ではなくなる、という発想がなかったため、画面は「自然」らしくない明晰さをもたざるをえませんでした。
モネの《日傘の女性、モネ夫人と息子》(1875年)を見てみましょう。画面いっぱいに光が取り込まれています。モネは同様の構図で何点か描いていますが、これは吹き抜ける風や草原の香りまでが伝わってくるほど。印象派をさほど評価していなかったゴッホも、モネだけは認めていました。またメアリー・カサットもモネを評価していたひとりで、しきりに彼の作品をアメリカへ売り込んでいます。……。1880年代にはモネはすでにアメリカでも高い人気を博していたのです。
………
〈「珠玉のコレクションで読み解く
印象派の時代」より〉
美品