1998年10月2日 初版発行。
吉本隆明は、1924年11月25日生まれ、2012年3月16日に逝去した、東京都出身のの詩人、批評家です。
漫画家のハルノ宵子は長女、作家の吉本ばななは次女です。
その吉本ばななの本書巻末の解説が興味深い(ちなみにイラストの担当はハルノ宵子です)。
自身の飼い猫との死別の悲しいエピソードが中心なのだが、そのことをこう書いている。
犬は、いつもどこかに野生の緊張感はあるものの人とかなり似ているし、愛情をかけた分、ほぼ人間の意にそう形で必ず返してくれる。しかし猫は必ずしも人間が好む形で愛情を表現するとは限らない。私は今、犬や亀にかまけて猫は飼っていないが、猫のことを思うといつもなんとなく「痛い」感じがする。幼い頃から見てきたおびただしい数の不条理な死のせいだけではなく、猫と人間とはなんとなく切ないものだと思う。
(吉本家の猫-解説にかえて より)
「悲しい」「さびしい」などではなく、「痛い」「せつない」。
激しい感情を呼び起こしそうでありながら、どこかぼんやりした、行き場のない空っぽな心のあり方が、ここにはあるようだ。
こういう感覚は、人間と猫が初めて出会ったときに似ているのかもしれない。
人間が手を差し伸べれば猫は逃げ、逆に無視していると猫が近くまで寄ってくるみたいな経験は、誰にでもあるはず。そんなとき、困ったり、何やってるんだろうと間が抜けた気分にもなる。
この不思議な関係が、猫を飼うことの根本にあるような気がする。
著者独自の鋭い視点で愛すべき猫を観察しているのだが、猫との不思議な関係に戸惑ってしまい、批評眼に基づく鋭い語りを剥き出しにできずユーモア混じりに表現せざるを得ない、そんな著者の優しい姿がぼんやり伝わることで、逆に猫そのものの全体像が浮かび上がってくる、傑作エッセイである。
経年による色褪せがあります。
それ以外は美品です。